昨年夏に、Dinaさんという方がドイツからの短期留学で来日しました。その交流の様子が、大沼前会長と平舘会員から寄せられました。
イラン出身のDinaさんとのDMTの交流
大沼小雪
昨年9月に、ハイデルベルクのSRH大学院で学んでいるDina Cheraghvand(ディナ・チェラフヴァンド)という方から、国際的な活躍をしている﨑山ゆかりさんに日本での実践の場の見学の依頼があり、﨑山さんから理事への紹介があり、私も名乗りを上げて見学に来て頂くことになりました。SRH大学は医療系のコース(看護、薬学、歯学、獣医など)があり、その中にダンス・ムーヴメントセラピー、音楽療法、ヘルスケア、心理療法などの修士課程があるようです。
﨑山さんからお聞きしたところによると、Dinaさんはハイデルベルグ大学のSabine Kochの元でダンスセラピーを学んでおり、ADTA元会長のRobyn CruzやSherry Goodillからもオンラインで指導を受けていたとのことでした。大学院の奨学金を得て、短期間ではあるが、日本でダンスセラピーを学べるところを探す際、Sherryからも﨑山さんに依頼があったという経緯とのことでした。日本には、異文化学習プロジェクトの単位の取得のために訪れたようです。
﨑山さんから見学の問いかけがあったとき、是非ともお会いしたいと思いました。私の行っている小規模のデイケアのフロアはL字型で、4人掛けのテーブルが3つ程置いてあり、動くスペースは本のわずかなのですが、そんな小さな狭い空間でも、デイケアメンバーさんとの交流は色々と工夫すれば何でも可能になります。そして、その空間はアートでいっぱいなのです。絵画の先生が月に2回、その他コラージュ、押し花、書道、短歌・俳句が作品として壁面に心地よく配置され、テーブルの上にもアートフラワー、折り紙の作品がさりげなく飾られています。そして、メンバーさんたちが温かく迎えてくれる空間です。もちろん、時には病状が不安定なメンバーさんもおり、心無い言葉を発することがありますが、ダンスをした後は機嫌がよくなっています。
空間の狭さは工夫次第で何とかなりますが、問題は私の語学力。そこで私の力強い仲間であり、いつも快く協力してくれる、ダンスセラピストでもある永井順子さんと平舘ゆうさんのお二人に通訳とダンスセラピーのサポートをお願いしました。
Dinaさんが訪れる2週間程前に「ドイツの大学院生がダンスセラピーに参加する予定です。」とメンバーさんにお知らせしたところ、「ドイツ語を学んでいたので、ドイツ語で話してみたい」と張り切る人、どんなことを話そうかとワクワクしている人、メンバーさんはドイツからのお客様を心待ちにしていました。
そしていよいよ本番の日。何故か待ち合わせの駅に現れず焦りましたが、海外の生活が長い永井さんは、スマホを駆使し、すぐさまラインを繋ぎ、彼女の居場所を写真で送ってもらうと、駅名は間違っていませんでしたが、JRではなく地下鉄の駅で待っていたことがわかりました。身長が高く、大きな帽子をかぶり、笑顔いっぱいの陽気なDinaさん!一瞬で好きになりました。
セッションでDinaさんを紹介すると、メンバーさんはドイツ語で挨拶する人、英語で自分の名前を言う人がおり、本当に温かく大歓迎で迎えてくれました。私は日本調を意識し、小道具として扇子を準備して踊ったり、長いポリエチレンシートを使って遊んだり、そしていつものように、グループダンスと私とのペアダンスを行いました。通訳の2名とDinaさんの素敵な女性が3名加わっていつもとは全くというほど異なる華やかな雰囲気でした。
終わってから、メンバーの方たち、ゲスト3人の感想の感想をお聞きしました。メンバーさんの感想はいつものように、「楽しかった」が殆どでしたが、「ゲストの方が3人も来てくれて驚いた。踊りを見せて頂いて嬉しかった」というのもありました。永井さんからは、「言葉がなくても通じ合う」、平舘さんからは「とても楽しい時間だった。居心地が良い」、そしてDinaさんの感想は「ずっとここに居たい!」でした。私自身はこの「ずっとここに居たい」という感想に少し驚きました。楽しかった、というのではなく、にこやかにとても満足そうに言ったのです。色々な意味が含まれているように思いました。狭い空間ですが、清潔感もあり、アートな雰囲気、そして何よりもメンバーさんの優しさに癒されたのかもしれません。何よりも自由でいられること、それが一番だったのかもしれません。
それから、私たち4人と町田章一先生にも加わって頂き、スペイン料理のお店にご招待しました。私は通訳がないと話に加わることができず残念でしたが、セッションが楽しかったとか、そんな話ではなく、深い話をされていたように思います。「ずっとここに居たい」という思いは、きっと平和であることの願いだったように思います。
その後、ドイツからボーイフレンドが来るから、東京のイラン料理のレストランに招待したい、という申し出があり、町田先生も加わって私たち4人とDinaさんとボーフレンドと6人でイラン料理を堪能しながら楽しい交流をしました。Dinaさんは、彼女のお母さんの手作りのお菓子(日本の香煎、諸越に近い)を私たちや他のお店のお客さんにも配ってくれました。いつも陽気でリクエストするとすぐに踊ってくれ、ご自分でもラテン系と言っていたように思いますが、家族への思い、家族からも大切にされていることがそのお菓子に示されていたように思いました。
Dinaさんは本当に陽気で、自分のこともオープンに話す方でしたが、祖国イランについては、非常に抽象的な表現で自分の思いを文章にしていることもあるようでした。
私は、ダンスセラピーを通して、日常生活では出会えないような方たちと出会う機会がたくさんあるように思います。このような機会を与えて下さった方々に感謝いたします。
追記
大学の受け入れ窓口としては、日本女子体育大学の八木ありささんとのことで、単位認定の責任者になっていたと思います。他にも鍛冶美幸さんやたくさんのJADTAの方たちが、Dinaさんを快く受け入れて下さって、宝のような体験ができたのではないか、と﨑山さんが述べており、JADTAの横のつながりに感謝したい気持ちになります。
Dinaさんとの交流の思い出
平舘ゆう
昨年9月に日本女子体育大学への留学のため来日していたDinaさんとは、大沼先生が行う精神科デイケアでのセッションおよびお食事会にて交流させていただく機会をいただきました。
少し前のことになりますが、自国イランを愛する彼女の思いに触れ感じたこと(と食べ物の話)をシェアしたいと思います。
﨑山先生に繋いでいただき、Dinaさんから初めてご連絡をいただいたのは8月頭でした。「ドイツのハイデベルク大学でDMTを学ぶイラン出身の院生」であり、「日本滞在中に様々なDMTおよび文化的な体験を積みたい」とのことで、メールの文面から情熱的な想いが伝わってきたのですが、知識のない私はその情熱がどこからきているのか、始めはイメージが掴めませんでした。
セッション当日、待ち合わせの駅で待っていたのは、ウェーブがかったロングヘアと柔らかな笑顔が印象的な女性でした。会場に入り一通り挨拶を済ませた後、大沼先生の進行でセッションが始まりました。限られた空間の中で、参加者と一緒に楽しそうに体を揺らし、時に自分がまとっていたスカーフのようなものを使って顔を隠しておどけたりする姿をみて、私は「ああ、中東の女性だなあ!」などと呑気に思っていました。そして、物腰柔らかく、礼儀正しくとても真面目、そんな印象を受けました。
セッション後、お昼ご飯を一緒に食べることになり、そこで改めてお話を伺うことになりました。イランにもお米を使ったお料理がありお米が大好きなこと、難民キャンプにおけるダンスセラピーなどイランの社会情勢に絡んだセッションに関わってきたこと、またダンスセラピーを通して、いまだ圧倒的に立場の弱いイラン女性を変えていきたいということ、そして意外なことに、観光学の修士号を持っていることなど、色々なお話をしてくださいました。しかし実はこの時点でも、メールをいただいた当初から感じていた彼女の内に秘めた何かが、私にはまだ見えていなかったのです。イラン人女性のためのDMTのイメージも、いまいち掴めていませんでした。
後日、Dinaさんは遅れて来日するパートナーも交えて、都内のイラン料理レストランへ招待したいと連絡をくださいました。10日ほど後に再会すると、長かったロングヘアは一部を残してベリーショートになっていました。論文執筆を終えたのを機に、吉祥寺の美容室で切ってもらったと大変喜んでいました。さらに驚くことに、少し前に富士山に登った際に、自分のロングヘアの束を柵にくくりつけてきたというのです。「これから富士山に登る人は、きっと私の髪の毛を目にするわ!」と嬉しそうに話してくれました。実は、私はこの話を聞いた時に初めて、彼女の情熱の本質に触れたような気がしました。すなわち、彼女は実は非常にスピリチュアルで、それが彼女自身を突き動かしているのではないかと感じたのです。
レストランでは、BGMで流れている音楽や提供されたお料理に触れ、「そうそう、これなのよ!」とイラン文化をわかりやすく紹介してくださいました。デザートにいただいたローズウォーターを使ったアイスは独特の香りが口の中に広がる珍しいもので、イラン人はこのローズウォーターが大好きなのだそうです。お食事の終盤、彼女はおもむろにカバンの中からタッパーを取り出します。その中には故郷のお母さんが作ってくれたという可愛らしい形のクッキーが入っていて、「よかったら食べてください」と差し出してくれました。(後で改めて調べてみたところ「ナネ・ノホチ」という、イランの伝統菓子のようです。)ひよこ豆をベースにローズウォーターやスパイスなどが入った、もろこし菓子のようなもので、とても美味しくいただきました。ふと彼女の洋服に目を向けると、斜めに文字がたくさん書いてあります。聞いてみると、「大好きな詩が書かれていて、一目見て気に入って買った」のだそうです。その詩が何の詩だったのか、私はすっかり忘れてしまったのですが、彼女の想いに改めて触れたもう一つの瞬間であったことははっきりと覚えています。
Dinaさんは、イランの伝統を心から愛しつつ、長らく続くイラン人女性の立場の弱さについて深く憂いていて、DMTを通してその現状を変えていきたいという想いを抱えていました。その一方で、彼女自身もまた一人のイラン人女性であり、それに向き合う術として、あらゆるものに宿るエネルギーを受け止め、神秘性を肯定するようなスピリチュアルな考え方をもっているようでした。何かに願いを込めたり、何かからメッセージを受け取ることが、彼女にとってはごく自然なことで、そういった内省的にもみえる物事の捉え方が、彼女のまとう空気感につながっているのだと、私なりに腑に落ちたのでした。それがイラン人女性特有のものなのかはわかりません。しかし、DMTに神秘性を持ち込むということではなく、彼女自身が神秘的なものを肯定する人であるということが、イランにおけるDMTの可能性を広げる重要なファクターであるのではと感じさせるのでした。彼女の世界観に触れ、一晩限りの旅に出たような、そんなお食事会でした。
つい最近も、イラン人女性の立場に関するニュース記事を見かけました。彼女の想いがやがて拡がりをもって未来を変えていくことを、心から願わずにはいられません。
編集部注:
Dinaさんは今イランにいますが、イランではイスラム教の教義によりダンスを踊ることは厳しく制限されています。また現在イスラエルと緊張状態にあります。そのような中でダンスセラピストを目指すのは多くの困難がありまた強い意志がいると思います。Dinaさんにも原稿を依頼しており、届きましたら掲載いたします。
参考:中東解体新書 それでも私は踊りたい | NHK NEWS WEB
イスラム圏の女性 | FUJIYO Photography