第34回学術研究大会を終えて
大会実行委員長 﨑山 ゆかり

今回の、「会員限定・1日オンラインで参加費無料」という初めての試みは、執行部4名による企画運営で実施した大会でした。大きなトラブルもなく無事に終えることができましたこと、改めて本大会にかかわってくださったすべてのみなさまに感謝申し上げます。お忙しい中、ご発表くださった方々、進行を務めてくださった方々、そして何よりも各地から画面越しにご参加くださった会員のみなさま、本当にありがとうございました。
本大会では、運営側も含めた参加申込数が合計62名、当日は常時35〜45名ほどが入室する状況でした。みなさまにとって最も印象に残ったのはどのような場面だったでしょうか。登壇者の言葉、質疑応答、ブレイクアウトルームでの自由なやり取りなど、それぞれに得るものがある大会であればうれしく思います。
今回の年次大会での体験は、実際に顔を合わせ、時間と場を共有しながら共に動くことで得られるものとは、確かに異なるかもしれません。ですが、大会後のアンケートに寄せてくださった多くの声を通して、思いを同じくする仲間とオンラインを介してつながり、学び合えるということを改めて実感できる大会でした。
また、オンラインだからこそ求められる参加の在り方、伝えたいことをコンパクトにまとめて進行に配慮するスキル、プログラム全体の時間配分を考え、今回は発言を控えつつ耳を傾け自分の学びとして深く取り込もうとする姿勢──そうした目に見えない「ダンスセラピーを学ぶ仲間としての一体感」を私自身が感じられる大会でもありました。
実行委員長としての反省点は多々ありますが、「執行部によるチーム運営」という形に大いに助けられました。また、大会事務局担当の星野ゆう子さん、JADTA事務局の大参さんにも運営に必要な情報共有をスムーズに進めていただきました。この場を借りて、改めて感謝申し上げます。
日 時:11月30日(日) @オンライン(Zoom)
参加者:会員のみ、約40名
テーマ:今できることを一歩ずつ
主 催:執行部(大会実行委員会委員長:﨑山副会長)
プログラム:
| ダンスセラピー初心者向けスタートアップ文教大学大学院修了生等の実践発表とベテランからの助言 報告者:大澤音々(千葉市教育センター/浅川クリニック) 助言者:大沼小雪(当協会顧問) 神宮京子(群馬病院) 進 行:鍛冶美幸 |
| ダンスセラピー・リーダーの活動と社会的ニーズ 報告者: 1) 石川奈穂美 認知症高齢者の地域(札幌市)での支援 2) 石川林太郎 カッコよさという脅威から、安全を守るDMT(精神科デイケア) 3) 原弘枝 精神科での高齢者のDMTの実際 4) 山田晃広 子どもや地域の人たちとのDMTでの交流 (動画視聴) 進行:葛西俊治・後藤美智子 |
| 上映会『ムービング・チャイルド「動き」が育てるこころとからだ』 第1巻 からだの動きを通した発達支援 (60分) |
| 近接領域からの身体へのアプローチの実践紹介 ダンスセラピーとのつながりを考える Sensorimotor Psychotherapyについて 長谷川病院 宮城整 進行 廣瀬優希 |
| 研究活動の紹介 「ダンスやムーブメントでの心理療法的効果ということ」 葛西俊治(JADTA会長、札幌DMT研究所代表) 「DMT効いてますか? DMTを科学したい」 髙橋秀樹(四国大学生活科学部児童学科) 「共に創り・共に踊る」ダンスフェスのアクション・リサーチ 山田美穂(お茶の水女子大学コンピテンシー育成開発研究所/基幹研究院人間科学系) 進行:﨑山ゆかり |
発表報告
ダンスセラピー・リーダーの活動と社会的ニーズ
認知症高齢者の地域(札幌市)での支援
報告者 石川奈穂美
報告者は認知症当事者の家族として家族会などに参加することを通して、行政の認知症対策についての活動を知り認知症サポーターとして、2023年より活動に参加。
チームオレンジの活動では、区民センターや介護施設などで当事者、家族、支援者などが集い、写経、折り紙、塗り絵、カラオケ、カフェなどさまざまな活動を行っている。報告者のそこでの活動は当事者の方の話し相手や活動のサポート、体の不調や慢性的な痛みに対してボディーワーク(主にフェルデンクライスメソッド)的なアプローチを行っている。ダンスムーブメントリーダーとして過去に関係者を対象にグループセッションを実施したことがあるが継続には至っていない。
ある日の出逢いについて。
いつものようにスマイルオレンジの活動に参加していたところ、ある女性が長時間熱心に写経をしている姿が目の止まりました。参加して日も浅いようで同じテーブルにいる誰とも話さず一心不乱に筆を走らせている姿が印象的でした。札幌市の事業受託事業者の包括支援センターの責任者から、その女性が八十歳代の認知症当事者で最近肩の手術をしたばかりで、写経をしていたら肩が痛み出したと訴えがあるのでコミニュケーションをとってほしいとの依頼がありました。肩の痛みに対してフェルデンクライスの手技を用いお体に触れさせていただくと、触れられることについて好意的な反応だったこともあり、少し全体的な体の動きを軽くゆっくりと行いました。お互い向かい合い、手と手を合わせ、揺れるような回るような動きになった時に、その女性が子供の頃バレエを踊っていたことを話し始めました。近所のお寺でバレエの教室が開催されていたが母親を早くに亡くし経済的に余裕がなかったので習うことは叶わなかったが、踊るのが好きだったのでいつも眺めていたこと、事情を知った先生が無料だと他の生徒との関係があるので、手伝いということで参加させてもらうことができたことなどを、少し誇らしげに踊りながら話してくださいました。だんだんとバレエの動きになってきましたのでついていきました。どちらがリードしているのかが曖昧な心地よい感覚になってきました。長時間机に向かうことで閉じ気味だった胸が開き、話すことで呼吸が深くなってきたことが感じられました。しっかりと動いたにもかかわらず肩も痛みは無くなったとのことで、動きをフェードアウトしていき触れ合いが終了しました。この女性とは体への手技から始まった出逢いでしたが、一緒に動くことによって、女性の回想が起こり、ダンスムーブメントセラピーとしての枠の中で行ったことではありませんが、その過程がダンスムーブメントセラピーで学んだことが生かされたと感じた経緯のもと今回の発表に至りました。ダンスとムーブメントと心理的な変化についての考察が不十分と感じましたので、今後実践について理論的に学ぶ必要を感じました。
レポート作成の経験がなく形式、様式等不十分なものでありますことお詫びします。


ブレイクアウトルーム1(石川奈穂美・山田晃広)
進行 葛西俊治
昨年2024年度のオンライン年次大会では、ダンスセラピー・リーダーの活動の発表に多くの反響がありました。それを受けて今大会でも企画され、「(1)(4)地域での活動」、「(2)(3)精神科ダンスセラピー」がテーマとなり、それぞれのトークの後に二つのブレークルームに分かれて話し合いました。葛西が進行役の前者の「地域での様々な活動」には、「(1)病院や施設ではなく認知症高齢者を身近でサポート」「(4)ダンスエクササイズでの地域活性化(500人イベント実施など)~凄いですね!」そして「フラワーダンス」「足ウラ体操」などの活動、医療福祉心理領域などの実践者や研究者など、計17名程が参加。しかし関心や話題は広い範囲に及び、短い時間の中では残念ながらやりとりに限界がありました。
個人的な印象としては、「ダンス」や「セラピー」という枠組みに必ずしも留まらない「人と人との関わり」の優しさや楽しさや「健康活動」など、そうした広がりの必要な状況が見えてきたこと、また、そうした方々が「ダンスセラピーの活動と社会ニーズ」というプログラムに参加していただいたことにあらためて手応えを感じました。
発言の機会がなかった方々お一人お一人と是非お話しできれば…そうそう!オンラインでの会員「トーク交流」イベントをすでに二回実施して、あと二回、1月から3月に実施します。詳しくはメールマガジンそして協会ホームページで確認していただければと思います。大会での続き、そしてさらなる展開となれば嬉しいです。
なお、昨年の大会での「ダンスセラピー・リーダ活動」の発表に基づいて、その社会的意義をAIに依頼してまとめました。すると、ダンスセラピーを基軸とする私たちの活動、それを社会的にさらに促進すべき理由がきちんと示されました。ぜひお読みいただいて次のオンライン「トーク交流」での話題の一つになればと願っています。
日本ダンス・セラピー協会独自資格 ⇒ 「ダンスセラピー・リーダーの位置づけ」
ブレイクアウトルーム 2(石川林太郎・原弘枝)
進行 後藤美智子
この度は「精神科ダンスセラピー」がテーマのブレークルーム司会者という貴重な機会を頂きこころより感謝申し上げます。20人近くの方々にお入り頂き、温かな雰囲気で展開されていたと思います。ブレークルームの持ち時間を12時05分まで延長して頂いたおかげで、どうにかお二人分の質疑応答とディスカッションを確保することが出来ました。
精神科でのDMTという枠組みでしたが、2つのご報告は、踊れるセラピストと踊れない(ことになっている)セラピスト、と対比的なご報告となっていたのが興味深く感じました。
石川林太郎さんの「カッコよさという脅威から、安全を守るDMT(精神科デイケア)」のご報告について、踊れるセラピスト石川さんのお悩みとして、DTMグループセッションを始めたばかりの試行錯誤がよく伝わってきました。ご自身が踊ったことを「怖い」と言われてしまうなど、患者からの直球コメントを浴びておられて精神科でのダンスセラピーのリアルが伝わってきました。ブレークルーム内の質疑では参加者から、セラピストが暗に有する「ダンスの型に則した『上手・下手』のこだわり」について鋭い指摘がありました。「とてもあんなんできへんわ」と思う患者へセラピストがどうDMTとしてアプローチするのか。DMTがセラピーたる所以、その核心にせまる「問い」を頂いたと思います。
原弘枝さんの「精神科での高齢者のDMTの実際」について、原さんは控えめに話しておられましたが、精神科の各病棟でのご経験を積み重ねていらっしゃることが伝わりました。精神科でかつ高齢の認知症を患う患者とのグループセッションで、それぞれの方の意志や尊厳が大切にされていることが窺われました。ブレークルーム内の質疑では参加者との原さんとの会話に、「精神科でのセッションでセラピストが体験するであろう『温かみと哀しみ』という深い共感が2人に生じていたように感じました。
お二人ともに「みなさんはどうしてますか?」という問いかけがあって、もっとディスカッションの時間があれば参加者の方々へ具体的に伺いたかったなあと思っていらっしゃったと思います。ダンセラピー・リーダーとして試行錯誤の連続であるがゆえのニーズを伝えて下さったと感じました。ご報告、質疑を頂きました皆様にこころより感謝申し上げます。
研究活動の紹介
「ダンスやムーブメントでの心理療法的効果ということ」
発表者 葛西俊治
2024年発刊の『ダンスセラピー研究』に掲載された論文を大会で手短に紹介しました。「総説 レビュー」という位置づけの論文で、アメリカダンスセラピー協会 (ADTA)がダンスムーブメント・セラピーとは「ムーブメント(身体の動き) を<心理療法的に>用いること」とした核心部分を、心理学理論に沿って明確にしたものです。AI花盛りの2025年、こうした論文を書くために足しげく図書館に行き大量の本や論文を渉猟(しょうりょう)するのも終わりました。今はAIにテーマやプロンプトを与えるとそれらしい内容が数秒で吐き出される時代となり、「総説」を自ら書く最後の機会になったと思います。論文は少し長めなので「スマホなどで見ず、ちゃんと印刷して枕元に置いて読むとぐっすり眠れます-」と言うと笑いがありましたが、心静かに休める理由は次の通りです。
「セラピー」は「治療 cure キュア」と同じではありません。幸いなことに、言葉で行う集団心理(精神)療法を長年実践し研究した精神科医アーヴィン・ヤーロムは、「集団療法での話し合いで起きるセラピーとしての効果は、治療(キュア)ではなく、<心理療法的な効果>である」と明言しました。グループでカラダを動かして行うダンス/ムーブメントにおいても同様に、「希望の注入」から始まる「11項目の心理療法的効果」が含まれていることを、私は長年の実践経験から確認してきました (「アブダクション」「提喩的了解」に基づく質的研究)。
さらに、ダンスムーブメント・セラピーは様々ですが、セラピーとしての根本原理はまずはマスローが唱えた「安全欲求」を満たすことです。人はいじめられたり命令されたりせず「心身ともに安らかでホッとしている状況に居たい」ということで、決めたとおりに踊りなさいなどと要求されたくはない―。どのように(何のために)進むのかが分かる=「予測可能性」、そして、どうするか自分で決められる=「場面進行の制御可能性」(あるいはインフォームドコンセント)、この二つがあって「自分は安全だ」と思える状況となり、それを実現することが「セラピーの基本」なのです。ダンスセラピーでは楽曲の力によって特定の身体心理的な状況に導かれたりもします。それが心地よい人たちには喜びですが、不安や悲しさを覚える人には無理強いに感じられてしまいます。それでは「セラピー」とは縁遠いものになってしまいそうです―。といった事柄を半世紀以上前からの心理学理論の基本から把握して示しました。ぜひその内容を受け取ってさらに次の世代へと引き継いでもらえればと願っています。
「DMT 効いてますか? DMT を科学したい」
発表者 髙橋秀樹(四国大学生活科学部児童学科、Ph.D, R-DMT)
概要
本報告は,「研究活動の紹介」プログラムにおいて「DMT 効いてますか? DMT を科学 したい」を演題として発表した内容をまとめたものである.発表では,日本国内のダンス/ ムーブメントセラピー(DMT)介入研究の現状をスコーピングレビューにより調査し,そ の特徴と課題を明らかにした.さらに,その知見を踏まえ,3 歳未満児を対象とした DMT による発達援助の実践を紹介し,身体知覚,運動企画,社会性の発達に寄与する可能性を示 した.
日本国内の DMT 介入研究の現状
本発表では,スコーピングレビューガイドラインに基づき実施した日本国内の DMT 介 入研究の現状を報告した 1).なお,本研究は Creative Arts in Education and Therapy に受理 されている.
これまで日本国内では,知的能力障がい者の気づきの向上や認知症高齢者の認知機能の 改善など,DMT の有効性が報告されてきたが,介入研究の現状を包括的に調査した研究は 限定的であった.したがって,日本国内における DMT 介入研究の特徴を明らかにすること は,今後の日本における DMT 研究の発展に寄与すると考える.
研究目的
1992 年~2025 年 3 月までの日本国内の DMT 介入研究を,PRISMA-ScR ガイドライン に基づき調査し,特徴と有効性を明らかにすることを目的とした.
調査結果
重複文献を除く 672 件の文献から 9 件が採択された.Levels of Evidence(LOE)は level 2 が 2 件,level 3 が 3 件,level 4 が 4 件であった.研究デザインはランダム化比較試験 2 件,準ランダム化比較試験 1 件,前後比較試験 2 件,症例研究 1 件,ケースシリーズ 3 件 であった.対象者の年齢は 3 歳~85 歳で,169 名中 99 名(58.5%)が疾患または障がいを 有していた.最も多い疾患・障がいは知的能力障がい 42 名(24.8%),次いで統合失調症ス ペクトラム障がい 16 名(16.1%)であった.アウトカム指標は 37 指標あり,標準化または 客観的指標と判断された指標は 13 指標(35.1%)であった.介入技法は 47 技法が確認さ れ,ミラーリング 5 件(10.6%)と身体接触 5 件(10.6%)が最も多かった.介入効果は 23 の効果が確認され,バランス能力の向上 3 件(13.0%)と前向きな表現・思考の変化 3 件
(13.0%)が最多であった.
考察
LOE の結果,Level 2 は 2 件のみで,Level 3 以下が 7 件と大半を占め,日本の DMT 介 入研究のエビデンスレベルは極めて低いことが明らかとなった.また,ランダム化比較試験 は 2 件にとどまり,標準化された評価法の使用も 35%と少なく,研究デザインや評価法の 統制が不十分であることが示された.今後は,客観性の高い研究デザインと標準化された評 価法を導入し,信頼性と妥当性を備えたエビデンスの蓄積が必要である.一方,DMT の対 象年齢は 3 歳~85 歳と広く,ミラーリングや身体接触を介した非言語的コミュニケーショ ンに一定の効果がみられた.このことは,3 歳未満児における非言語的な活動や遊びを通じ た学びの在り方と共通する側面があり,3 歳未満児の発達援助に有用な可能性がある.
3 歳未満児を対象とした DMT の発達援助
以上の知見を踏まえ,3 歳未満児を対象とした DMT の発達援助の実践を紹介した.DMT は,認定こども園において,1 回 60 分,年間 20 回の DMT セッションを日常保育の一環と して行っている.DMT セッションでは,はじめの数回はムーブメント要素に焦点を当て, 自己身体を物的環境に対して操作する活動を行い,その後ダンス要素へ移行し,空間の中で 他者との関わりを深める活動へと展開した.これらの活動を通じて,身体知覚,運動企画, 社会性の発達に寄与する可能性が示唆された.
まとめ
日本国内の DMT 介入研究はエビデンスレベルが低く,研究デザインや評価法に課題が ある.今後は客観性の高い研究デザインと標準化された評価法の導入により,信頼性の高い エビデンスを蓄積する必要がある.
ミラーリングや身体接触を介した DMT 技法は,3 歳未満児の身体知覚,運動企画,社会 性の発達に寄与する可能性がある.
引用文献
1). Takahashi, H., & Sakiyama, Y. (2025). A scoping review of Japanese dance/movement therapy intervention studies. Creative Arts in Education and Therapy. (accepted)
「共に創り・共に踊る」ダンスフェスのアクション・リサーチ
発表者 山田 美穂(お茶の水女子大学)
1 研究をめぐる試行錯誤
私の専門は臨床心理学です。セラピストとクライエントの関係性を重視し活用する身体的心理療法としてダンスセラピーを学び、活用することに取り組んできました。
研究者の端くれとしては、主に解釈的な質的研究を行ってきました。今は、本研究の枠組みであるアクション・リサーチやインクルーシブ・リサーチなどもそうですが、当事者が研究実践に主体的に参加して協働できる方法が発展しつつあることに勇気をもらい、私たちのダンスフェス研究でもそういうチャレンジをしていきたいと思っています。
これまで私がしてきた研究は、臨床実践の面白さや社会的意義を伝えたくて、あとから「論文」という形にしたものが多く、計画的でスマートな研究とはとても言えないのですが、セラピスト=研究者の主観的体験であれば、事後的なデータ分析の中でも理解を深め、精緻化していくことが可能だと考えています。「セラピスト=研究者」の研究における客観性とは、研究者の主観を一切入れないことではなく、臨床実践と研究に必ず含まれる研究者の主観の内容とその根拠を思い込みや独りよがりにならないように示し、吟味し、議論をすることなのではないかと考えます。
そのために、データに合わせて分析方法を工夫する試行錯誤を重ねてきました。その中で、研究の輪を広げていくことの価値を強く感じるようになりました。そのような歩みが本研究につながっています。
2 ダンスフェス研究の実際
「障害のある人と創るダンスフェス」着想のきっかけは、3年前から継続している、特別支援学校の生徒と保護者さんたちとのグループダンスセラピー実践「鬼のパンツの会」でした。親子さんのダンスに毎回心揺さぶられるのですが、その話を誰かにしてもなかなか伝わらず、もどかしい思いをすることが多くありました。一方、保護者さんたちからは「地域でもこうやって皆で楽しめる場所がほしいけれど、なかなかそういう機会がない」と聴かせていただきました。
ならば、地域に開かれた、「共に踊る」場を「共に創る」ことができればいいのでは?障害のある人たちのことやダンスセラピーのことをよく知らない人も、一緒に踊ることで障害観やダンス観が変わるかもしれない?ダンスセラピーにはそういう力があるはず!…と考えたことが、ダンスフェスのアクション・リサーチをしよう!という出発点になりました。
まずは鬼のパンツの会の皆さんに提案し、緊張するけれどやってみたいと言っていただきました。さまざまな領域の研究者に参加してもらい、経費が必要な研究なので必死で助成金を申請し、2025年からひとまず2年間ということでスタートしました。現在までに、3県で3つのプロジェクトが生まれています(図1)。
3 リサーチ・クエスチョンとデータ収集と共有
本研究のリサーチ・クエスチョンは「ダンスフェスの企画・実施への参加は,障害のある人,家族,支援者にどのような心理・身体・社会的効果をもたらすか?」と「ダンスフェスの実施は,関係機関や地域にどのような社会的効果をもたらすか?」です。障害のある人たちへの効果だけでなく、家族、支援者、地域コミュニティ、そして研究者自身がどう変わるかに焦点を当てている点が、本研究の特徴であると思います。
プロジェクトを進めていくこと自体が、この問いに答えていくための研究実践であり、現在進行中なのでまだ結論のようなことは言えませんが、いくつかの方法でデータ収集を進めています。
セッション動画を用いた、共同研究者(スタッフ・保護者)への個別インタビュー:「鬼のパンツの会」でのある一場面(50秒)の動画を他領域の専門的研究者6人と保護者4人に見てもらいながら、気づいたことを語ってもらいました。
ニュースレターの発行・配布、盆踊り曲の創作と披露:B県での計4回のプロジェクトでは、オリジナルの音頭を作り、地域のお祭りで披露することができました。また、参加者募集と活動報告を兼ねたニュースレターを3号発行しました。これらもアートベースなデータ提示の方法として位置づけています。
学生・修了生スタッフとのグループインタビュー:若手の対人支援専門職あるいはタマゴであるスタッフにとって、プロジェクトに参加することがどういう体験なのか、専門職トレーニングとしての効果があるのかを調べています。
セッション中のセラピスト(山田)の運動分析:次の計画です。
4 研究で大事にしたいこと
本研究で大事にしたいことは、「ことば」と「ことばでないもの」を行き来することと、それができる実践と研究の場をつくることです(図2)。
今回お話させていただいたことが、研究に取り組もうとしておられる方の背中を押せるものになっていれば、とても嬉しく思います。
※本研究は、公益財団法人 ユニベール財団、公益財団法人 小林製薬青い鳥財団からの研究助成支援を受けて実施しています。研究室のHPに関連資料を掲載していますので、よろしければご覧ください。(https://sites.google.com/view/mihoyamada/)
図 1

図 2

アンケートのまとめ
22名の方から、丁寧なアンケートを頂きました。分量が多いので、AI要約にして掲載します。
大会の概要と参加状況
第34回日本ダンス・セラピー協会(JADTA)学術研究大会は、オンライン形式で開催され、約60名が参加した。会員限定・参加費無料という新しい試みが好評を博し、育児休暇中の参加者や初めて大会に参加する会員にとって参加のハードルが下がったとの声が多数寄せられた。オンライン開催により、遠隔地からの参加や、対面開催との交互実施の可能性についても前向きな意見があった。
プログラム内容への高評価
大会は「今できることを一歩ずつ」をテーマに、学術と実践のバランスが取れた質の高い内容で構成された。参加者からは「非常に充実した企画」「実りの多いプログラム」との評価が相次いだ。特に、経験の浅い発表者に対してベテランがコメントを与える形式が、後進を育てる上で効果的であったと評価された。
注目された発表
大澤さんの精神科デイケアでの実践報告は、経験が浅いとは感じさせないクライアントへの向き合い方と臨機応変な対応が高く評価された。ダンスセラピーリーダーの活動報告では、内科看護師の山田晃広さんによる医療資格を活かした地域での予防的介入、認知症支援でクラシックバレエの想起を活用した事例など、多様で意欲的な実践が紹介された。
午後のプログラムでは、宮城氏によるSensorimotor Psychotherapy(センサリーモーターサイコセラピー)の講義が、ダンスセラピーとの共通点が多く、トラウマ介入における新しい可能性を示すものとして大きな関心を集めた。耐性領域の図を用いた説明は、セラピストが知っておくべき限界を明確に示し、臨床知に溢れた内容であったと評価された。
昼休憩に上映されたムービング・チャイルドの動画は、子どもの発達段階を詳細に理解できる貴重な映像として好評だった。高橋氏の研究活動紹介では、幼児の遊びを通した他者との関わりについて、少数でもエビデンスデータを示せる可能性が示唆され、教育現場での予防的・開発的な心理的支援への応用可能性について議論された。
学びと気づき
参加者は「安心・安全・自由」という環境が脳をリラックスさせ、痛みの軽減にもつながることを理解した。非言語での表現、ミラーリング、チェイシアンアプローチを通じた開放の価値、「今ここ」を重視する姿勢の重要性など、ダンスセラピーの本質的な要素について多くの学びがあった。また、身体の語りに気づくこと、姿勢の持つ意味を理解することの大切さが再確認された。
若手とベテランの発表を通じて、専門性の違いによるアプローチの多様性が認識される一方で、「ダンスを通していい時間を共有しよう」という共通の想いが根底にあることも確認された。医療や福祉の現場でダンスを取り入れることの意義と課題について、現場での受容を広げていく努力の必要性が共有された。
運営への感謝と今後への期待
執行部と実行委員の尽力に対して、多くの感謝の言葉が寄せられた。「北海道パワーは凄い」との声や、AIを活用したプレゼンテーションへの驚きなど、運営側の工夫と熱意が高く評価された。時間通りの進行、自由に発言できる雰囲気づくりなど、細やかな配慮も好評だった。
今後への要望としては、アーカイブ配信による事後視聴の可能性、実践的なワークショップの増加、研究デザインや検定方法のより詳細な共有などが挙げられた。来年は大手前短期大学での対面開催が予定されており、参加者は新たな形式の大会を楽しみにしている。
この大会は、JADTAの今後の手本となる大会として、多くの参加者に有意義な学びと刺激を提供した。会員限定・無料という形式が、学会の発展と次世代育成に貢献する可能性を示した大会となった。
