DMT地域派遣事業報告『生きづらさを抱える方や支援者のためのダンスセラピー体験会』

DMT地域派遣事業報告

地域DMT推進委員会

7月に行いました地域派遣助成事業の報告をいたします。

タイトル:生きづらさを抱える方や支援者のためのダンスセラピー体験会
実施者 :マニシア(認定ダンスセラピスト)
日時会場:① 2023年7月15日 くにたち夢ファームJIKKA(東京都国立市)
     ② 2023年7月16日 D-Base 武蔵境スタジオ1(東京都武蔵野市)
(→告知ページ)

事業報告 by マニシア

 2回目となる地域派遣事業助成の採択していただき、心から感謝しております。

 2021年からout of frameの新作である少年院でのドキュメンタリー映画に関わり、少年院の少年たちと一緒に踊り、彼らと語り合う機会があり、彼ら自身や彼らの母親が虐待の経験をもつことが少なくはないと知りました。
 2022年の秋に出会った少年院の少年たちの中には、障がい者手帳は持っていないけれども、(手帳を申請されていないこともあるかもしれません)いわゆるグレーゾーンのような少年たちもいて、コミュニケーションなどに問題があるということでしたが、踊ることで心を開き、集中力が散漫だったように見えた子も、ワークショップを重ねるうちに、身体に集中している姿も見せてくれるようになりました。
 生きづらさを抱えている女性たちと犯罪を犯してしまった少年たちとが自分の頭の中で重なり合って、ダンスで少年たちが変化していったことを考えると、彼らの母親を含む女性たちが癒されることで、ダンスが犯罪の減少を促す効果を持つとも考えられなくはないと思いました。
 out of frameの代表で映画監督でもある坂上香さんから「ダンスの持つ可能性を深く感じた」と感想をいただいたと言うこともあり、このような経緯で今回のダンスセラピーの体験会の企画が私とout of frame の間で始まりました。

 今回は、東京で2日間の体験会を場所と対象者を分けて行いました。
 1日目は、NPO法人くにたち夢ファームJIKKAという生活困窮女性のための包括自立支援をされている施設で行い、支援員さんたち6名が参加してくれました。打ち合わせ当初は利用者の方も参加の呼びかけをしてくださることを期待していましたが、様々な大きな問題を抱えている女性がJikkaを利用していると言うことで、まずは支援員さんたちが体験してから全てをデリケートに進めていくことを考えたらしく、今後の参加を呼びかける対象者を考えていきたいということでした。
 支援員さんたちの数名は、身体が硬いから、若くないから、恥ずかしいからと初めは参加することに前向きではなかった方もいらっしゃったそうですが、当初、当事者の女性たちの参加の可能性も考慮して考えていたので、施設の集い場にあるテーブルを囲み、椅子に座ったままのストレッッチからワークを始めたこともあり、あまり緊張せずに、私の誘導と共に、全員が自然に身体を動かしました。
 身体がほぐれてくると、表情も柔らかくなり、和やかな雰囲気が漂い始めたので、心身ともにウォーミングアップができたのではないかと感じ、その後、椅子の背もたれを持ち下半身のストレッチを行って、リズミカルな音楽に合わせてテーブルの周りをみんなで歩きました。音楽に誘発され少しずつ腕が自由に動き、胸や腰も動き始めるとお互いに目を合わせながら笑顔を交わしていきました。
 音楽を変えて立ち止まり、デモンストレーションとして空気の中に何かを見つけたような動きから、演劇的に両手でその目には見えないものを持ち、それのサイズや質が変化していくような身体表現を行い、隣の方にその見えない何かを渡しました。
 ムーヴメントゲームのルールを言葉を使わずに全員がすぐに理解し、順番に表現しながら、それぞれの違う表現を見合っているうちに、その場が笑いで満ち溢れていきました。
 水分補給の休憩を取りながら、テーブルに模造紙を敷き詰めて、身体で自由に表現することを促す線あそびのドローイングをダンスに変化させていくワークを体験してもらいました。
 模造紙上や空間に線を描く姿から描く人の持つエネルギーや性格の一部さえも感じ取れ、Jikkaの支援員の方々の支援の器の大きさや彼女たちの愛の深さに感動しました。
 最後に、目を閉じて言葉で誘導するリラクゼーションを行い、体験会を終えました。
 「共に仕事をしている仲間なのに、深く知り合えた気持ちになった」と振り返りでいただいた感想が印象的でした。
 「体験してみて、次回このような機会がまたあるのならば、大きな問題を抱えている利用者さんたちにも声がけしたい」と言ってくださり、生きづらさを抱えながら生きている方々を対象とするダンスへのパッションの炎が燃え上がるような気持ちになりました。ただ一つ課題があり、Jikkaのような施設のワークショップでは、どのような方が何人参加されるか当日にならないと分からなく、今回はコーディネートしてくださったOut of frameの関係者たちとの信頼関係の元で成り立ちましたが、保険に関する事前準備が主催者側から行うのは難しく、私から加入手続きは行っていません。
 このような場合、施設側に頼るしかないように思え、他の施設でワークショップを行う際には事前打ち合わせで、必ず保険について話し合う必要があると感じました。

 2日目の体験会は、一般公募の方々を対象としたワークショップでした。
 支援者たちに体験してもらい、ダンスセラピーが支援策の一つとして社会に浸透していくことと同時に、ダンスセラピストを増やしていくことも重要であると、助成申請の段階で深く感じました。
 コロナ感染、家族の介護、その他の体調不良などの理由で、当日キャンセルもありましたが、ダンスセラピーに興味がある方以外にも、虐待当事者であり対人支援職の方、トラウマの研究者、精神科医など多種多様な方々が参加してくださいました。
 内容としては、緊張と弛緩のテクニックを用い、床に寝た状態で全身をほぐしていくことから始め、その後で輪になり、座った位置から立っていくまでのストレッチを全体を流れとして繋ぎながら行いました。
 そして、イメージを使ったムーヴメントや人生を遡って感じてみるようなことを動きながら行い、心身のウォーミングアップを深めていきました。
 休憩を入れて、ペアになり床に置いた画用紙の上に、音楽に合わせてクレヨンが踊るように線あそびドローイングを行いました。画用紙上でのドローイングと同じように、空間を360度の球体の画用紙と見立て手のひらで線をなぞるパートナーの動きを、その相手がミラーリングしながら、ダンスへと変化させていきました。
 その後、輪になり空間に線を描く動きに、感情を加えて踊ることへと発展させていきました。
 最後に、舞台の後のあいさつのような動きを短いソロダンスとして一人ずつ踊り、みんなで手を繋ぎ、腕を上げながら輪の中心により、下げながら輪を広げていくことを繰り返し、お互いに目をしっかり合わせ、笑顔でワークショップを終えていきました。振り返りで、身体の変化を含め、感じたことや身体の内側で響いてくることをひとりずつシェアしました。
 「ワークショップ中に何度も涙が出てきました。」「同じようなワークを体験したことがありますが、シンプルで身体が開放されやすかった」という感想が印象的でした。

 支援を実際に受けるべき方々が、支援施設にも行けていない例が少なくないという事実が、この日本にもあります。
 ダンスに何がどのくらいできるのか、分かりません。少なくとも、自分自身がダンスに救われてきたことは事実であり、これからもダンスの力を信じ続け、このような活動を継続させることを目標に頑張っていきたいと強く願います。
 今回の地域派遣事業の助成を受けて開催できた体験会が新たな一歩となり、一般募集の体験会の参加者の一人から別の地域の支援施設でのワークショップのオファーが既にあり、10月に開催予定です。
 そして、もう一人の参加者で地域の男女共同参画施設の関係者からも、今後の施設の企画としてダンスを取り入れることを考えていきたいと言っていただきました。
 数名のダンスセラピーに興味のある方々は、これから学んでいくことを希望されていました。

 今回東京で体験会が開催させていただけたことを、心から感謝しています。
 本当にありがとうございました。2023.7.16.JPG