『ダンスセラピー研究』第9巻 第1号(2016年)

目 次

特別企画
ダンスセラピーにおけるトレーニングについて特別企画に寄せて                                    神宮 京子………1
ダンス・ムーブメント・セラピストのトレーニング:パイオニア精神の育成   田中 恵理………5
ダンスセラピストのトレーニングについて
 一長谷川精神医療教育研究所・長谷川病院でのトレーニングを通して—    峰岸 由香………11
ダンスセラピストとしての専門性を高めるトレーニングについて考える     﨑山ゆかり………17
トレーニングについて一真摯に関わり深く学ぶことから            美馬 千秋………23
ダンスセラピーという仕事                         荒川香代子………29
研究報告
ダンス関心度とダンスムーブメントセラピー体験の関連
 一DMT体験評定尺度とDMT体験過程スケールを用いて一         峰岸 由香………33
資  料
ダンス/ムーブメントセラピーにおけるスーパーヴァイズの意義について
 一スーパーヴァイジーの視点から捉えたスーパーヴィジョントレーニングの効果 川岸 恵子………43
短  報
加速度波形からみた表現動作の分類                     成瀬 九美………55
活動報告
セラピストが直面するクライエントの不在とそれによる影響
 一青少年を対象としたダンスセラピー                   中山 実生………59

Special issueTraining on DanceTherapy
Kyoko JINGU‥‥‥‥‥1
Preliminary Remarks to the Specia1 TopicDance/Movement Therapy Training: Fostering the Pioneering Spirit Eri
TANAKA MILLROD..5
The training of Dance therapist at Hasegawa hospitaland Hasegawa lnstitute of psychiatric education
Yuka MINEGISHI………11
Thought about Training丘)r Heightening Profession as a Dance/IVlovement Therapist
Yukari SAKIYAMA‥‥‥17
D/MT training – From sincerely relating to people and learning deeply 
Chiaki MIWA………23
The Practice of Dance /IVlovement Therapy
Kayoko ARAKAWA‥‥‥‥‥29
Research ReportThe Relationship Between Dance lnterest Level And The Experience of Dance Movement Therapy -Using the DMT experience rating scale and DIVIT experiencing scale-
Yuka MINEGISHI..33
Research MaterialEffects of Supervision in Dance/IVlovement Therapy ? Effects of training as supervlsee
Keiko KAWAGISHI ………43
Short ReportClassification of expressive movement with accelerometers
Kumi NARUSE………55
ReportClients’ Absenteeism that the therapist faces and its impact on her/him-Dance Movement Psychotherapy for Adolescents
Mioi Nakayama………59

抄 録

特別企画

特別企画に寄せて                             神宮 京子………1

社会情勢の変化と共にダンスセラピーを取り巻く環境も変わりつつあり、専門職の資格化の重要性が増す中、ダンスセラピストとしてどのような準備をしていくことが求められるのか? この問いを、良い意味での危機感をもって自分自身に問いかける必要性を強く実感する。本特別企画では『トレーニング』について、異なる背景をもつ第一線のダンスセラピスト達に、実体験に基づく考えを紹介して頂いた。様々な立場にある読者皆様の、学び成長していきたいという気持ちに大きな刺激を与えてくれるものと確信している。貴重な体験を率直に語って下さった執筆者諸氏に感謝をこめて敬意を哀したい。
キーワード:ダンスセラピー、トレーニング、成長
Key words: dance therapy, training, growth

ダンス・ムーブメント・セラピストのトレーニング:パイオニア精神の育成  田中 恵理………5

臨床経験24年間を振り返って、ダンス・ムーブメント・セラピストのトレーニングについて米国からの視点で述べる。ダンス・ムーブメント・セラピー(DMT)のトレーニングはDMTの専門知識の他に、心理学やセラピーの理論と方法、ダンスの技能と学問的知識、創造性の理論等が必要である。しかし、パイオニアの精神を育てることが最も大切である。新たな経験を恐れず、創造性を働かせ、未知なるものに取り組む姿勢はセッション内の混乱や不安を乗り越えるために必要である。そして、DMTの進展、クライアントとセラピスト自身の成長にも欠かせない。パイオニアの精神を育てるにはダンスが最良であるから、ダンスのトレーニングはダンス・ムーブメント・セラピストである以上、生涯に渡って続けるべきだ。パイオニアの精神を養って、DMTの研究を行い、次世代のダンス・ムーブメント・セラピストのトレーニングとDMTの新しい理論や方法を発展させる必要がある。
キーワード:ダンス・ムーブメント・セラピー,トレーニング,創造性,マインドフルネス,パイオニア精神
Key words: Dance Movement Training, Creativity, Mindfulness, Pioneering Spirit

ダンスセラピストのトレーニングについて
一長谷川精神医療教育研究所・長谷川病院でのトレーニングを通して—  峰岸 由香………11

本橋では、長谷川精神医療教育研究所及び長谷川病院におけるダンスセラピストのトレーニングの内容と気づきについて筆者の実践を元に継時的に報告する。チェイス派ダンス・ムーブメントセラピー(以下、DMT)の理論・技法を学び、身体的な共感と模倣のトレーニングで共感力・サポートカ・判断力を培った。長谷川病院でのOJTを通して、セラピスト(以下、Th)としての在り方、セッションの進め方を学び、様々な状況に対処する力を養った。継続的なトレーニングと自己と向き合い真摯に研鏝する姿勢がダンスセラピストに必要だと考える。
キーワード:ダンスセラピスト、トレーニング、OJT、精神科病院
Key words: Dance therapist, Training, OJT, mental hospital

ダンスセラピストとしての専門性を高めるトレーニングについて考える   﨑山ゆかり………17

トレーニングを考えるとき、2つの枠組みが必要である。まずセラピストになるまでのトレーニングは、各国の教育制度や認定セラピストの養成制度におけるカリキュラムでの学びとなる。次にセラピストになってからのトレーニングは、セラピスト自身の志向性に大きく左右される。専門家としての自負と共に、自分なりの学びを続けていくこと、その人の生き方がトレーニングに直結している。特にその学びの中には、これまで通りの学習者という体験からの学びと、教授する体験がもたらす指導者としての学びがあり、いずれも専門性を高めるトレーニングと位置づけられる。知識の獲得と実践からの経験を専門家としてどのように統合していくのかという、セラピストとしての自身の志向性を客観的に捉えることが、専門性を高めるトレーニングを規定する本質となる。それぞれに学びの歩みを続けていくことそのものがトレーニングなのである。
キーワード:専門性、カリキュラム、トレーニング
Key words: profession, curriculum, training

トレーニングについて一真摯に関わり深く学ぶことから         美馬 千秋………23

1999年から精神科ディケアでのプログラム「リラクセイション」「ダンスセラピー」「リワーク]などを担当して現在に至る中、ダンスセラピストとしてのみならずアート傾城の舞踏家としての活動と身体心理療法に基づくセラピストとしてのセッションを長年にわたって積み重ねてきた。その問、アートとセラピーとその学問的な把握にも取り組むことを経て、自らのアプローチがグループ・セッションやプライベートなセラピーの参加者にとって、真に必要な生きる希望や喜びの種を見つけられる場であるように努めてきた。ダンスセラピーという身体心理的なアプローチの意義を自覚し、自身の能力についての見極めと内省に基づいて専門的な援助者たるべきことを述べた。
キーワード:舞踏、身体心理療法、ボディラーニング
Key words: butoh dance, body-mind psychotherapy, body learning

ダンスセラピーという仕事                      荒川香代子………29

ダンス/ムーブメントセラピー(以下DMT)は身体表現を通して個人が環境や人開関係のなかでどのように適応し、内的なこころの欲求や願望との関係を探索していくプロセスに関わっていく。治療的関係におけるセラピストとクライエント(以下CI.)は情緒的な身体経験を重ね、安全で内的な体験を伝える表現を育んでいく過程に添うと同時に、セラピスト自身の内的作業が大切になる。非言語レベルにおける相互作用の中で、無意識に反応するセラピストの表現や嗜好性がCI.に及ぼす影響に留意することや、心の有り様を探索していく過程そのものが「トレーニング」とつながってくるのである。筆者のこれまでの現場における体験を事例にセラピストの仕事について考えてみた。
キーワード:身体表現、相互関係、内的作業、構造化
Key words: body expression, interrelationships, internal working, framework

研究報告

ダンス関心度とダンスムーブメントセラピー体験の関連
一DMT体験評定尺度とDMT体験過程スケールを用いて一        峰岸 由香………33
The Relationship Between Dance lnterest Level And The Experience of DanceMovement Therapy
– Using the DMT experience rating scale and DMT experiencing scale –
Yuka MINEGISHI

   The purposeof this study is to investigate whether thcre is the relationship between the level of interest in dance and the experience of dance movement therapy (DMT).
The method was to conduct 3 sessions of DMT with about 10 people each. We measured the
participants’ DMT experiencc using the DMT experience rating scale (the rating scale)and the DMT experiencing scale (thc experiencing scale). ln addition, we carried out case studies based on the descriptions of participants and videos of their movements.
The results were as fbllows. We observed a positive correlation between dance interest level and the rating scale.The rating scale have 5 subscales.The correlation with ”devotion to the experience” was strong 皿d¨feeling of inner world projection, ”awareness” were weak.The correlation with ”subjective body sensation” and ”self・stability” were no significant.No correlation was observed between dance interest level and the, experiencing scale.
From the above results and the case studies, the following results were considered. People with a high level of interest in dance tend to have a rich and integrated expcrience. lt is thought that this is because they are less resistant to dancing, and that they are also able to address the experienceofDMT without resistance.lt says that people with a high level of interest in Dance could easily concentrate on the DMT, and project their own inner world within the dance and fiom there change their awareness and easily expcncnce catharsis.
lt suggests that the reason for low correlation with experiencing scale is that the two scales focus on different aspects of the experience.The deep DMT experienceprocess is obtained without connection to dance interest leve1, and it is also possible that other personal factors are collected.
キーワード:ダンス関心度、DMT体験評定尺度、DMT体験過程スケール
Key words: Dance interest level, The DMT experience rating scale, The DMT experiencing scale

資  料

ダンス/ムーブメントセラピーにおけるスーパーヴァイズの意義について
一スーパーヴァイジーの視点から捉えたスーパーヴィジョントレーニングの効果  川岸 恵子……43
Effects of Supervision in Dance/Nlovement Therapy
 ̄Effbcts of training as supervisee
Keiko KAWAGISHI

ln the neld of Psychotherapy, beginner therapist shoud be training trough supervision.
Dance Movement Therapist needs to verify how to lead the group and decipher here and now of group. Dancc/Movement Therapist in the Japanese dance/movement therapy, supervision can’t be common.
l pick up my supervisee exPerience and speak how to leam the dance/movement therapy through supervision. From 2002 to 2006j leamed in supervision on the Dance/Movement Therapy in psychiatric day care, and l have leamed in supervision on Dance/Movement Therapy of generally healthy people 丘om 2006.
For the therapist, supervision can compensate for the lack of training 皿d the lack of selfanalysis. Supervision canbuild a better relationship, the power to decipher the client and group, soxve can development as dance/movement therapist.
キーワード:ダンス/ムーブメントセラピー、スーパーヴィジョン、スーパーヴァイジー
Key words: Dance/Movement Therapy, Supervision, Supervise

短  報

加速度波形からみた表現動作の分類 成瀬 九美………55

近年、加速度センサの小型化や高機能化か進み、電極を装着する必要なく人間の身体から直接測定ができる無線3軸小型加速度計が開発され、この加速度センサを活用して人の動きや行動を分析・識別する研究事例が報告されている,本研究ては、動作者の前腕部、上腕部、下腿部に三輪小型加速度計を装着して、課題動作を自分なりに「なめらかに動けるようになるまでを繰り返し測定し、得られた加速度データに対して、試行回数を変数とするクラスター分析(階層法、ウォード法)を行った。手首、肘、膝の各部位のクラスター構造には類似や差異が認められた。さらに、遂行時間や遂行に対する自己評価得点からクラスターの特性を推測することによって動きのパターン分類が可能であることが示唆された。
キーワード:加速度、表現動作、クラスター分析
Key words: acceleration, expressive movement, cluster analysis

活動報告

セラピストが直面するクライエントの不在とそれによる影響
一青少年を対象としたダンスセラピー     中山 実生………59

本報告において、ダンスセラピストである筆者が、セラピストになるための実習で青少年を対象にダンス・ムーブメント・サイコセラピー(Dance Movement Psychotherapy : 以下DMPと略)で経験した「クライエントの不在」について考察した。特にセラピストになるための実習の間、クライエントがセラピーに来ないことに対して筆者が径験した不安やフラストレーション、それをどのようにスーパービジョンで考察したかを振り返る。更に、クライエントの頻繁な不在の中にも、クライエントの動きやセラピューティックな関係において発展が見られたことをケステンベルグ・ムーヴメント・プロフィールと照らし合わせて考えてみる。
キーワード:不在、青少年、スーパービジョン、ケステンベルグ・ムーヴメント・プロフィール
Key words: absenteeism, adolescents, supervision, Kestenberg Movement Profile (KMP)