T. シュープ (著), 平井 タカネ (翻訳), 三井 悦子 (翻訳), & 1 その他
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患者の心の幻想は抑圧するのではなく、ともに幻想の世界を翔び、一緒にこの現実世界に着陸する方がよい。ダンスがどのように分裂病患者に応用され、受け入れられるかについて述べる。タイムス1988年初版の改訂版。
紹介:星野仁(JADTA News 4号より転載)
トゥルーディ・シュープは、アメリカのダ ンスセラピー界でマリアン・チェイスに並ぶ 第一世代にあたるダンサーです。本書は彼女 自身の実践と理論をわかりやすくまとめたも のです。
20年代ドイツでのモダンダンスの発展、 30年代スイスでのナチスへのダンスによる戦 いの序章の後、第一章では彼女がダンスセラ ピーを生み出してゆく過程が描かれます。
大戦後のまだダンスセラピーの名もない 頃、彼女は精神障害者にとってダンスは価値 があるはずとの思いをもって、病院にとびこ んでゆきます。そこでの最初の意気込みと失 敗を乗り越え、手探りでもがきながらも少し づつ、患者ひとりひとりの動きの特徴から彼 ら自身の世界を理解し、それを動きで自己表 現していけるよう導いていきます。豊富な症
例と、彼女自身によるイマジネイティブなイ ラストによって、彼女と患者たちの挫折、頑 張り、喜びが目に見えるように、時にはから だの感覚として伝わってきます。
第二・三章では方法論として動きの要素を 呼吸、からだの中心性、リズムなどに分け、 それぞれをやはり症例をあげて、ていねいに 彼女の理論を解説していきます。さらに実際 のセッションの進め方をあげ、理論を具体的 にどう実践していくかをわかり易く示してい ます。また、ダンサー自身にとっても、動く ことの意味を考えていきます。
第四章では、個人セッションの一例をセッ ションの流れにそって見ていきます。その中 では患者が心もからだも自分の世界に閉じこ もっていたのを、彼女が優しく包み込むよう に寄り添ってゆき、彼が病状がよくなったり 悪くなったりしながらも、少しずつ自分の世 界をからだと絵を通して表現し、回復してい く過程が描かれています。
全体を通して言えるのは、読み易く、また セッションが具体的でわかりやすいことで す。半世紀前にわれわれの先輩が、優しいま なざしで患者を見つめ、動きを通して彼らが より自分らしくなれる可能性を信じ、もがき ながらも少しずつ自分のダンスセラピーをつ くりあげていったこと、そしてそれが現在の 大きな流れにつながる泉の一つになったのを 読むと、勇気がわいてきます。