『医療現場に活かすダンス・ムーブメントセラピーの実際』
シャロン・W・グッディル著、平井タカネ監修 成瀬九美他訳、創元社、2008年 オトクな購入割引あり!
この本を紹介していただいたとき、私はとても驚いた。私は研修講座で「現代医療におけるダンスセラピーの位置づけ」という科目を担当しているが、この本の第1章が「医療的ダンス・ムーブメントセラピーの位置づけ」とあり、正に私が担当している科目と同じだったからである。科目名が同じでも、内容は桁違いの幅広さである。
本書は3部構成から成り立っている。第Ⅰ部は、医療的DMT(ダンス・ムーブメントセラピー)についての理論的、科学的基盤で、ストレス、コーピング、セルフ・エフィカシー、ソーシャル・サポート、気分と感情、スピリチュアルと宗教、イメージ、免疫システム、脳波や筋電図と意識の適用、心身相関的介入、身体の健康とDMTのつながり、などについて述べている。第Ⅱ部は、医療的DMTの実際であり、成人患者(傷み、心因性身体障害、心臓病、肺疾患、エイズ、神経学的疾患)、子どもの発達に影響する疾患、そして癌治療とDMT(心理腫瘍学、乳癌患者、小児癌患者)、家族と介護者のためのDMTである。第Ⅲ部は、研究と教育で研究上の諸問題、コミュニケーション研究、実践的トレーニングという構成である。
これらの内容はおよそ400以上もの膨大な研究論文を参考にしている。研究者であればこれがどれ程すごいことなのか、大変な作業なのかわかるはずである。それでもグッディル氏はこの研究はまだ緒についたばかりであると謙虚な姿勢を述べているところに、この人の素晴らしさが伝わってくる。この本は博士論文で、「優秀プロジェクト賞」を受けたということからも内容の素晴らしさがうかがえる。
私は医療の領域に身を置く者として、ダンスセラピーで得られた感覚や身体反応が免疫力と何らかの関連があるということは、これまで読んできた文献から知っていた。特にスティーヴン・ロック、ダグラス・コリガン著の「内なる治癒力―こころと免疫をめぐる新しい医学」(1990)という本は、私のバイブルとでも言えるほど、大きな影響を受けた本である。グッディル氏の本もこのスティーヴン・ロックらの本がふんだんに引用し、とても心強く思えた。さらにまたさまざまな文献を紹介し考察しており、その科学的データに裏づけされた内容は十分に信頼できるものであり、この本を読んでから自分の行なっていることに自信がもてるようになっていった。そして気がつくと患者さんにもそれを説明している自分がいた。
日本においては、精神科を除く医療現場におけるダンスセラピーを実践している人は本当に少ない。精神科臨床においても、資格を持ち正式に仕事している人は極わずかである。音楽療法が医療現場にかなり入り込んでいる現状をみると、ダンスセラピーがまだまだ宣伝不足というか、その特殊性や資格取得の難しさゆえセラピストも不足している。そういう意味において、本書はダンスセラピーの可能性を十分に示してくれているものであり、是非、ダンスセラピー関係者以外の医療従事者、管理者など多くの人の目に触れて読んでいただきたいと強く思う。また、これからダンスセラピーを学ぶ人にとっても、大いに支えになる本であることは間違いない。
大沼小雪(東北福祉大学)
(JADTA News #81より)