DMT地域派遣事業報告『DMTを体感しよう – 障がい者が選べる選択肢としてのダンスセラピー』

企画責任者
フォースター中山実生

目的

 筆者の事業目的は、筆者が在住する南オーストラリア州アデレード市にて、特に障がい者対象に活動する団体や団体のサービスコーディネーターに対して、ダンスセラピー(以下、DMTと略)を体験してもらうことであった。2022年8月23日にワークショップを開催した。

背景

 主催者が在住するオーストラリア社会では、障がい者に選択肢があり、自立し生活していくことができる社会を目指すため、障がい者援助法(National Disability Insurance Scheme 2013、略してNDIS)が2013年に法律化された。個々人がNDISを通じてファンドを受ける形で、様々なサポートにアクセスできる仕組みだ。サポートの一環として、理学療法、言語療法、カンセリングや音楽療法、芸術療法がその選択肢の中に入っているが、ダンスセラピーはまだ認識されていない。よって、助成金の枠内で、多くの人に知ってもらい、なおかつ体感してもらうため、ワークショップを企画した。ワークショップでは一緒に体を動かし体験してもらい、理論を添えたプレゼンテーションを行った。 

セッション

 企画にあたって広報した際、15名の登録があった。主には、NPO法人など、障がい者をサポートする組織からの参加、個人での参加で、当日、実際に参加した人は7名だった。NDIS ファンドを受けている障がい者の参加者は見られなかった。準備、セッション、プレゼンテーション、片付けを含めると全部で3時間の開催となった。

 参加者には円形で座ってもらい、円形の中にはDMTで使う、道具(Props)を置いた。そして、まずは自己紹介をしてもらった。自己紹介では、名前だけでなく、どういったイメージをDMTに対して持っているか、ということを一言言ってもらった。多くの人は、DMTについて全く知らない、という回答が返ってきた。グループでは、守秘義務についてのリマインダ―をして、今回の企画の流れを簡単に紹介した。

1.ウォームアップ

 ウォームアップでは、まず呼吸にフォーカスをしてもらった。と同時に、呼吸をすることであまり入り込まないよう、意識的にリードするように努めた。また、座ってから始めたので、その姿勢でできるウォームアップとなった。体の部分部分を一緒に動かし、全体の部位をカバーする形で体を動かし始めた。そして、地面から少しずつ離れて立つポジションになるまで、時間をかけてゆっくりと行った。ウォームアップには20分ほどかけて行った。

 それから、すこしアップテンポな音楽に変わるころ、セラピストがいくつか簡単な動きをして、ミラーリングをグループでしてもらった。グループは動くことを期待されていると知っていたと考えられので、動くことに対してさほど抵抗も見られず、すぐに新しい動きが次々と生まれていったと感じられた。ミラーリングを何周かグループ内でした後、場所の感覚を得るため、スペースを自由に動く流れにした。ウォームアップから自由な動きには20分ほど時間をかけた。

2.自由な動き

 グループはすでに体が動くスイッチが入ったかのように、いろいろなスペースで自分で動きだした人が多かった。なかには、スペースをいっぱい使って、のびのびと動いている人もいれば、自分の体のキネスフィア(体と動く範囲との間にできる距離、または空間)の範囲内で動いている人もいた。この自由な動きは、15分ぐらい行った。自由に動くときに、Propを使って動く人もいた。

3.動きのエンディング

 最後は、自分の呼吸にもどり、生まれたエネルギーに関してまた気づいてもらうよう、参加者の方には意識的に行うように促した。

4.DMTのプレゼンテーション

 プレゼンテーションでは、以下のことを中心に説明した。

  • DMTの定義
  • DMTは誰のために役立つか、という説明
  • DMTの利点
  • DMTとセラピューティックダンスの違い‐以下表参考。

 最後に質問等を受け付けた。自分で体感した経験があったため、コンセプトも伝わりやすい、と筆者は感じた。たとえば、なぜミラーリングを行うのか、ということを説明した。ミラーリングは相手の動きを同じようにすることであるが、それをすることで、相手の動きを肯定し、可視化する意味で重要である、という内容を説明した。クライエントの多くは、日常生活で周囲から認められなかったり、意見を聞かれなかったりということがあるため、体を通して、その人存在そのものが認識されることが大切だということを伝えることができた。さらにミラーリングだけでなく、アチューンメントについても言及した。アチューンメントはミラーリングと違い、相手の気持ちを汲んだ、表した動きをセラピストが意図的にすることで、その両方を取り入れた行いが常に、ダンスセラピーでは行われていることを説明した。

 また、どういった人を対象にDMTは役立つのか、という話もした。障害を持つことで、周囲から理解を得られず、うまく社会化できない人や心を病む人もいるこのワークショップを締めくくるにあたり、今感じていることを表すジェスチャーを一つやってもらった。それを参加者全員でミラーリングしてワークショップを終えた。

 参加者の方からは、以下のようなフィードバックを頂いた。

  • ダンスセラピーについて全く知らなかったが、体を動かすことで理解することができた。
  • ダンスセラピーの理論についても知ることができて、知識を得ることができたセッションだったと思う。
  • 始めは、自由に動くということに戸惑いを感じたが、自然に体が動くことができてよかった。

 JADTAが提供する助成金を頂いたことによって、私は少しづつだが、ダンスセラピーの啓発活動ができていると感じている。このような機会がなければ、中々積極的に企画したりすることは難しいと感じるため、この機会を頂き感謝している。今回のワークショップによってダンスセラピーそのものが存在すること、NDISファンドを通じてダンスセラピーにアクセスすることができることを多少なりとも、知ってもらうことができたと考える。また、今回のワークショップでは日本人の方の参加もあったり、ダンスセラピーについて知りたい、という問い合わせが別の日本人の方からもあったりと、少しずつ日本人のコミュニティにも広がっていると感じられる。

プロフィール

フォースター中山実生(みおい)

 イギリスにて、ダンス・ムーブメント・サイコセラピストの資格を取得した後、イギリスや日本の精神病棟、NPO法人、学校、刑務所などでセラピーを行う。現在、アデレード市内の主にNDIS(National Disability Insurance Scheme, 全国障害保険制度)を利用している障害を持つ子どもを対象としたクリニックでセラピストとして勤務中。クリニカルスーパーバイザーの資格保持。

参考‐ダンスセラピーとセラピューティックダンスの違い

ダンスセラピーダンスクラス セラピューテックダンス
場所と範囲守秘義務あり。セラピーの外での交流は禁止。関係性はリラックスしたもので、グループやセッション外での交流の可能性もあり。
セラピーセッションの構造決められた構造があるかもしれないが、セラピーのゴールに沿ったものか、クライエント自身が構造を決める可能性がある。構造がある可能性が高い。クライエントのニーズに沿ったものではない可能性が高い。
パフォーマンス性ほぼなしある可能性もある
振付の有無ある可能性もあるある可能性もある
目的クライエントグループのニーズに沿ったものセラピー的ではあるが教育的、芸術的要素も含む
セラピストがセラピーを受ける必要性の有無あるなし
スーパービジョンの必要性あるなし
苦痛vs 娯楽要素クライエントが感じる苦痛について積極的に取り組むが、娯楽的な要素も認められており、その二つのバランスが必要。苦痛に取り組むことは避けられ、娯楽が強調される。
クライエントの内部に生まれるイメージやシンボルに関して取り組む必然取り組む可能性もある

(参考文献‐ Meekums, B. (2002). Dance Movement Therapy. A Creative Psychotherapeutic Approach. Sage Publications. London.)