「動き」を通して、「ぼく・わたし」を表現してみよう!~発達障害を持つ島の子どもたちへのダンス・セラピー
企画責任者
フォースター中山実生、MA, RDMP(UKADMP)
筆者の事業目的は1ダンスセラピー(以下、DMP)を地域社会に広げること、また 2子ども対象の DMP を行う、であった。よって、2016 年 7 月 31 日に児童保護施設関 係者に対して体験ワークショップ(以下 WS)と、10 月 12 日に施設の子どもたちのた めの DMP を広島県尾道市にて行った。
1 啓発活動
ようき向島のスタッフ 1 名が参加。ウォームアップの後、少しずつ動きの質や場所を変えて動く試みを促した。ミラリングの後、生まれた動きで気に入ったのをするこ とで、互いの動きを認識する空間を作った。また、布やリボンなどを使って踊ることをし、参加者は「場所の移動や動きの方向性を変えるだけで全く違う動きになること が分かった。」と述べた。最後に、DMP の歴史や効果、事例などを紹介。
2子ども向け DMP ワークショップ
向島(人口 2 万 5000 人)で活動する 「放課後デイサービスようき向島」 は、発達障がい児の子どもたち(小学 1 ~6 年生、中学生)が自分のペースでの びのびと過ごし、遊ぶこと、やがては 自立した生活を行うことが大切だという信念を持っている。
私が行った DMP には、小学生 1~5 年生の男子 5 名(自閉症や注意欠陥多動性障害)とスタッフ 3 名が参加。場所は普段から様々なアクティビティが行われ るプレイルームだ。事前に施設の説明があり今日はどんなものか見てみたい、という 所長からの要望があった上、ワーク時間が 50 分から 30 分に短縮された。WS 中も他 のスタッフや子どもたちが同室にいることも直前に聞いた。そういったスタッフの 『目』を気にしながらの WS であったことは否めず、かなりバウンダリーがあいまい な状況での WS となった。
30 分という中で、一体何ができるのだろう、という不安が私には明らかにあった。 心に決めていたことは、動くことでまず私自身が子どもたちとつながること、子ども たちの個々の動きを引き出すような「スペース」を生むことであった。最初に、おは じきが入った袋の音を順番に聞いてもらい、それを回した。1 周すると今度は名前を 言ってもらい、それを別の人に投げてもらった。投げるときに、故意に顔に当てたり、 強く投げることをしないよう伝えたが、何度か言う必要があった。パスをすることで、 バラバラにいた子どもたちが同じことを一緒にしている雰囲気が出来、そのうち夢中 になっていろんな人にパスをし出した。これから一緒に何かやることが子どもたちに伝わったと思う。
次に自分が幾つかいろんな動きをして、それを真似てもらうことをした。最初はシンプルに歩いたり、立ったり、座ったり。そこから、床をたたいて音を出したり、声 を使ったりすることで参加者のエネルギーを上げていった。A 君と B 君は恥ずかしそ うに座っていたので、その姿勢を私もして少しずつ彼らも動きの一部になってもらう 流れを作った。積極的な C 君に今度はリードを取ってもらう。自信満々に走ったり、 寝転がったり。部屋は笑いに包まれた。次に D 君に、そして、スタッフにもやっても らう。その後、C 君の番に再度なったとき、彼はどんな動きをしてよいか分からず悩 んでいたので私は待っていたら、あるスタッフが見本を見せた。大人主導の遊びは子 どもの自発性と学ぶ可能性を制限してしまう可能性がある(Seach, 2007)ので、セラ ピーやっていく時に後々スタッフにも理解を促す点の一つだと感じた。この辺りから また集中力が散漫になりグループも一つではなくなりかけたと感じた。
そこでパラシュートを持ってきた。子どもたちはばたばたと好きに動かしていたが、 少ししてから、みんなで「1,2,3アップ、1,2,3ダウン」で一緒に上下させ る動きを何回かした。その後、場所の入れ替えゲームをした。子どもたちはパラシュ ートが舞い上がる下に入りたがり、自分の居心地よい居場所を見つけたかのようだっ た。E 君の番になったときはっきりした声でスタッフの〇〇さんと呼んだ。後から聞 いた話だが、普段は声が小さくて全く周りには聞こえないという。このようなゲーム 感覚から解放感を得て、無意識のうちに声が出たのかもしれない。
自閉症や多動性行動障害の子どもたちを対象とした WS は、最初は長時間また大人 数ではできず、他のスタッフや子どももいる状況でやるには限界があり、結果的に 30 分がちょうどよかった。しかし、たった 30 分の間 でグループで何か一つのことを一緒にやる空 間を持つこと、動きのシェア、声の発生、 様々な動きの創造をすることができた。WS を終わった後、今後また定期的にセラピーを やることで効果があるということを話し合 い、来年まとまった時間で定期的に通ってセ ラピーをやることで話がまとまったことは今 回の事業の成果であったと考えられる。
参照
Seach, D. (2007). Chapter 1, Valuing Play. In : “ Interactive Play for Children with Autism”. Routledge, London.